京都・西陣織のテキスタイルブランドHOSOO(細尾)のアートギャラリー「HOSOO GALLERY」にて、新コンセプトの展覧会「庭と織物——The Shades of Shadows」を開催中。「かげ」をテーマに織物や映像、音と共に日本庭園を映し出す総合的なインスタレーションを公開しています。「HOSOO GALLERY」のディレクションを務めるの細尾真孝さんに、新しい取り組みとなった今回の展覧会についてその魅力を伺いました。
「HOSOO GALLERY」の新展覧会「庭と織物——The Shades of Shadows」
1,200年前の伝統を継承する先染め織物、西陣織の染織表現について最先端の研究を行う京都の老舗織屋、細尾。近年では世界のトップメゾンやラグジュアリーホテルにテキスタイルを供給するなど、グローバルな展開を進めています。同社が運営するアートギャラリー「HOSOO GALLERY」では、織物の染色によって制作された一点もののアートピースを紹介する展示シリーズを定期的に開催。
現在開催中のシリーズは、日本庭園・能楽の研究者である原瑠璃彦さんと建築デザインスタジオALTEMY、そして細尾の西陣織の職人が協業した、特別なインスタレーションです。人と自然環境のインターフェースとして多様な展開を遂げてきた日本庭園を取材し、その歴史を踏まえながら新しい解釈をする、原さんが進める研究プロジェクト「庭園アーカイヴ・プロジェクト」と連携。細尾の織物工房「HOUSE OF HOSOO」の坪庭を12ヶ月にわたって3Dスキャンを行うなど、さまざまなかたちで蓄積したデータをもとに、絶えず変化する庭の姿が織物で表現されています。これは約3年にわたり継続的に議論と実験を重ねて実現したものなのだそう。
日本庭園の風情ある景観をつくり出す「かげ」がテーマ
古くから多くの文化圏に存在し、自然の要素を再構成する空間的・身体的な装置である庭園と織物。同展では、日本庭園の随所に存在する「かげ」が重要なテーマとなっています。絶えず人の目を楽しませる、庭に立つ石や植物たちが光を浴びて落とす影。日本庭園につくられた池の表面は、複雑にちらちらと光る「かげ」を生じさせると同時に、周囲の風景を鏡のように「かげ」として反映します。その様子はいまも昔も変わらず、水が用いられない枯山水庭園でも、水の代わりとなる白砂は絶えず複雑な陰翳を生み出します。このようにさまざまな形で存在する、雅な「かげ」にスポットが当たりました。
3点の新作を軸に構成される展示内容
本展は、「かげ」をテーマにした主に3つの新作から構成されています。ひとつは、2022年3月から2023年2月まで毎月「HOUSE OF HOSOO」の坪庭を3Dスキャンして得られた12ヶ月分の点群データをもとに4次元データを生成し、それを3次元に投影した映像インスタレーション《4次元のかげ The Shadows of 4D Garden》、そして坪庭の点群データをもとに設計された特殊な箔糸を用いた織物のインスタレーション《かげのかげ The Shades of Shadows》、もうひとつは色を排除し織物の立体構造の「かげ」を純粋に浮かび上がらせる《色のない庭 The Achromatic Garden》です。
これらの3作品を通底するかたちで、庭には立体録音を行ったサウンド・インスタレーションを設置。さまざまな手法で取得したデータから、多層的な時間と“静と動”が交錯する新しい庭と織物の姿が表現されています。
新しい魅せ方で展覧会を実現させた細尾真孝さんに同展の魅力をインタビュー
細尾の代表取締役社長であり、同社が運営する「HOSOO GALLERY」のディレクションを務める細尾真孝さん。映像や音を取り入れた新たな演出で展開されている、今回の展覧会についてその魅力を伺いました。
細尾真孝(ほそお まさたか)/株式会社 細尾 代表取締役社長
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後は音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後はフィレンツェに留学し2008年に細尾に入社後、西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルをHOSOOブランドとして海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして世界のトップメゾンから高い支持を受ける。2020年に代表取締役社長に就任。
――原瑠璃彦さん、ALTEMY、そして細尾の西陣織職人との協業について、出会いや取り組みのきっかけを教えてください。
原瑠璃彦さんとは2019年に「HOSOO GALLERY」を設立した際から、リサーチャーとしてお力添えをいただいております。ALTEMYさんとは、2021年に山口情報芸術センターで開催された原さんとの展覧会「Incomplete Niwa Archives-終らない庭のアーカイヴ」を通じて出会いました。
――今回の展覧会「庭と織物——The Shades of Shadows」のテーマや実験内容は、どのように決められたのでしょうか。
「織物と庭」という抽象的で詩的なテーマが最初の出発点でした。このテーマを具体化するために、参加者全員で議論を重ね、試行錯誤の過程を楽しみながら形にしていきました。最終的には、西陣の工房「HOUSE OF HOSOO」の坪庭を1年間デジタルスキャンし、そのデータをもとに映像作品や織物を制作するというプロセスに辿り着きました。この取り組みは、西陣織と庭園という概念を新しい形で融合させる試みでもあります。
――「かげ」というテーマについて、細尾さんはどのように捉えていらっしゃいますか。
光と影は対立する存在ではなく、互いに補完し合うものです。今回の取り組みを通じて、織物の繊細な陰影や庭の中に息づく時間の層を新たに捉えることができました。影が空間を際立たせるように、織物における微細なニュアンスもまた、目に見えない部分が美を形づくる要素であると再認識しました。
――織物と庭園の関係性について、そして古典的な文脈を伝承していくことの意義について、どのようにお考えでしょうか。
織物と庭園は、どちらも時間の流れを内包しています。庭園の四季の変化や陰影は、織物の色彩やテクスチャーに似た感覚を与えます。古典的な文脈を未来に伝承するには、過去をそのまま保存するのではなく、現代のテクノロジーや創造性と組み合わせ新たな解釈を提示することが重要だと考えています。今回の取り組みも、そうした精神を反映しています。
――「HOSOO GALLERY」の展示は研究に時間を要するプロジェクトが多いと思いますが、テーマ自体はどのように決定されているのでしょうか。
「HOSOO GALLERY」のテーマは、有史以来人々と共に存在してきた織物を通じて、「美とは何か」「人間とは何か」という根源的な問いを、多角的な研究開発と展覧会を通じて世に問いかけることを目的としています。これには、織物が持つ歴史的・文化的意義を再考しつつ、現代ならではの美を追求するという意図が込められています。テーマの決定にあたっては、伝統に革新と時代性を取り込みながらも普遍的な価値を見出すよう努めています。時間を要するプロジェクトではありますが、深い探究がタイムレスな価値を生み出すと信じています。
――今後、「HOSOO GALLERY」ではどのようなメッセージを発信していきたいとお考えでしょうか。
多様な専門家との協働を通じて、工芸、アート、建築、テクノロジーといったさまざまな領域が交わる新たな価値を創出し、未来への可能性を提示する場でありたいと考えています。伝統を基盤としつつ、現代社会における新しい視点やアイデアを取り入れることで、人々に新たな発見と感動を提供し、文化の持続的発展に寄与することを目指しています。テキスタイルギャラリーとして、織物を介在するため、国内外、老若男女問わずどなたにも共感いただける部分があると思いますので、多くの方にご覧いただきたいと思います。
――世界に向けたアプローチと、来年以降のヴィジョンについて教えてください。
織物や工芸が持つ可能性は無限であり、これを多様なクリエイターや専門家との協働を通じて世界に示していきます。来年以降のヴィジョンとしては、細尾が持つ独自の素材や技術をグローバルに発信し、革新を生み出すプロジェクトを展開する予定です。特にデジタル技術との融合や新たなコラボレーションの形を模索しながら、伝統の枠を超えた未来の工芸の姿を探求していきます。これにより、「HOSOO GALLERY」が世界中の人々にインスピレーションを与える場であり続けたいと考えています。
「庭と織物——The Shades of Shadows」は2025年3月16日まで開催
「庭と織物——The Shades of Shadows」は、2025年3月16日(日)までの期間限定開催です。静的なものではなく、捉え難く絶えずうつろい続ける「かげ」をテーマに、映像や音で魅せる新たな展示にぜひご注目ください。
「庭と織物―The Shades of Shadows」
会期/〜2025年3月16日(日)
※祝日・年末年始を除く
会場/「HOSOO GALLERY」
所在地/京都市中京区柿本町412 HOSOO FLAGSHIP STORE 2階
開館時間/10:30~18:00(※入場は閉館の15分前まで)
入場/無料
問い合わせ先
HOSOO FLAGSHIP STORE
TEL/075-221-8888
URL/www.hosoogallery.jp
INTERVIEW:AYANO ISHIHARA



















